香港発のバイオレンス・サスペンス「ドリーム・ホーム」が面白かったので、監督について調べていたらたどりついた、シアターNによるミニ映画祭「パン・ホーチョン、お前は誰だ?」。最初の上映だった「イザベラ/伊莎貝拉」 が気になったので、早速観に行ってみることに。

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「イザベラ/伊莎貝拉」

感想の前の前書きとして、パン・ホーチョン監督作品で日本語版のDVDがリリースされているのが「イザベラ/伊莎貝拉」 だけなので、残念ながら他の作品は簡単には観る事ができません。だからこそ、東京国際映画祭で特集が組まれた時にはチケットは即完売、今回のシアターNの試みはありがたいものなんですね。私自身、パン監督を全く知らなかったのですが「ドリーム・ホーム」のおかげでこんな素晴らしい映画に出会えました。

ちょっと長くなりますが、香港映画好き、香港自体が好き!という方はぜひ読んでみてください。


「夏休みの宿題/暑期作業」(1999年・12分)201106131834588d3

97年に発刊した小説「フルタイム・キラー」の映画化権で得た資金を、全額投資して製作した12分間の短編。夏休みの最終日になっても、まだ宿題が終わっていない少年が生み出す、恐ろしい妄想を独特のタッチで描く。
パン監督の最初の作品。小説「フルタイム・キラー」の映画化権で得た資金を、全額投資して製作した映画。大人になって忘れてしまう、子供の恐怖心がユニークに演出された短編。最後に“ゾクっ”とさせるのはストーリーの進め方は、初期からなんですね。すごい。

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「ビヨンド・アワ・ケン/公主復仇記」 (2004年・98分)
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女優志望の中国人・シャーリーの前に現れた、元教師のワイチン。シャーリーの彼氏である、消防士 のケンと過去に付き合っていたという彼女は、彼とベッドで撮った写真を取り戻してほしいとシャーリーに頼むが…。台湾に 留学していた監督の女友達の身に起こった出来事をベースに映画化。
元カノが今カノに「カレとのベッド写真を一緒に取り戻して欲しい!」とお願いするという、プロットだけで絶対面白いよな、と思わせる作品。ダブル主演のTwinsのジリアン・チョンと、女優タオ・ホンがヤバイくらい可愛かった。

ベッド写真を撮りたがる男性の趣味の悪さは言わずもがなですが、その4年後、まさか本当にこんな事件が起こってしまうとは…。ジリアンは気の毒ですが、これも映画のオチだったんじゃないかと思えるほど出来すぎているなぁ。

女同士の友情、仲良くなっていく過程がすごく楽しくて、「女同士がバイクに2人乗りしている映画に間違い無し!」と核心を持ったほど、エモーショナルなシーンの連続。

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↑女同士がバイクに2人乗りしている映画に間違い無し!

そして、ビターというより辛いラストが抜群の展開だった。パン監督作品では、「イザベラ」に続いて2番目のお気に入り。かつてここまで、女のカワイさと恐さを同居させて映画があっただろうか?

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「AV」(2005年・104分)
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将来にこれといった夢も希望もな いまま、卒業を控えた大学生たちが、ナンパ目的で映画製作を開始。さらに、日本からAV女優を招聘し、あわよくば彼女と Hできるかも…という夢を実現させようとする。インパクトのあるタイトルや設定、本作の出演後に惜しまれながら引退したAV女優・天宮まなみの出演など、公開当時にはセンセーショナルな話題を呼んだ。

どの映画にもクスっと笑えるシーンが出てくるパン監督作品の中でも、かなりコメディに寄せた作品。男子がエロの為に頑張る映画はやっぱ面白いし、ちょっぴり切ない。ドラマ「Stand Up!」みたいな爽やかな雰囲気が良い。青春。

私は女なので、心の底からの共感は出来ないのが残念だけど、爆笑必至。もう引退しているAV女優、天宮まなみさん可愛かったなあ。超棒読みなんだけどそれがまた、いい味を出してる。そして、台湾のAV事情においての日本のイメージ…。EROはMANGA・ANIMEと同じくらい日本が誇る文化なのかねぇ。

ちなみに、天宮さん引退後の監督のメッセージは必読。恋愛ではなくて“恋”とはこういうものなのかもしれないと思ったり。

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「イザベラ/伊莎貝拉」 (2006年・109分)
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中国に返還される前年、1999年のポルトガル領マカオを舞台にした、監督5作目。窮地に追い込まれた汚職警官と、彼の娘だと名乗る少女の奇妙な共同生活が抒情的に描かれる。中国に返還される前年、1999年のポルトガル領マカオを舞台にした、監督5作目。窮地に追い込まれた汚職警官と、彼の娘だと名乗る少女の奇妙な共同生活が抒情的に描かれる。

ウォン・カーウァイ好きとしては「香港・美女・警官」というワードを見て、観に行かないワケにはいかないYO! と軽い気持ちで行ったものの、私が一番好きな映画が、「恋する惑星」以来、完全に塗り変わったかもしれない。そのくらいの衝撃度。

衝撃、というほど激しい映画では無いのだけど、途中からスクリーンの中で起こる事全てが完璧に自分の好みすぎて空恐ろしくなったほどです。映画が終わってしまうのが悲しかった。ずっといつまでも観ていたいほど、美しい映像、シーン、セリフの数々でした。

イザベラ・リョンの可憐さ、特にお酒に酔って歌謡曲を歌い、踊るシーンは胸がかきむしられるほど切なくなってしまった。全体的に淡く、おだやかに進んでいく映画だけれど笑えるシーンも多く、エンタティメントとして楽しめる素晴らしい映画。

年の離れた2人の友情の様な、恋愛の様な、家族の様なやりとりを見てると、不思議と心があたたかくなった。そして、「ここで終わるのだろうな」と(それでも大傑作だと思ってた)いうシーンから、さらに完璧に近づけたラストシーンには脱帽。もはや完璧だよ!!

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「些細なこと/破事兒」(2007年・90分)
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倦怠期を迎えた中年夫婦、見習いの殺し屋、恋する女子 高生などに起こる、“些細な出来事”をテーマに、「不可抗力」「公徳心」「做節」「徳雅星」「大頭阿慧」「増値」「尊尼亞」といっ た、意味深なタイトルによる全7話が展開。セックスやヴァイオレンス、ブラックでシニカルな笑いを散りばめ、当初か ら中国大陸での上映を視野に入れない監督のアグレッシヴな姿勢は、『ドリーム・ホーム』へ繋がっていく。

7つのショートショートがつまった、オムニバス作品。各話のあらすじは、こちらのブログに詳しいのでご覧ください。短くて5分ほど、長くても15分くらいの短い映画達がこれまたセンス抜群。監督が21歳の時に書いた小説の映画化との事ですが、どれも実験的でユニークな映像に仕上がっていました。

私が一番気に入ったのが、「祝日」(原題:做節)というお話し。

付き合って1ヵ月で同棲し始めた2人。だが彼女は結婚まで頑固として体を許さないと言う。だが家の中で彼女は下着姿でウロチョロし、男は欲求不満を増していく。だがクリスマスの日、祝日(記念日)ということで彼女があることに応じてくれる。それ以来、男はコツを覚えエスカレートしていく。ところがある日…

あらすじだけ読むと「AV」の様にエロコメディかと思うのだけど、これまたラストにゾっとさせられる秀逸な展開だった。エロもあり、ちょっとしたヴァイオレンスもあり、切ない恋愛や友情模様アリという、パン・ホーチョンという監督の才能がギッシリつまっていた。「ビヨンド・アワ・ケン」から、続けてパン監督作品を観たので、「この俳優さんは、あの人だ!」と“パン組”に気付けたのも嬉しい発見だった。

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と、まあ長々と書いてしまいサーセン!
本当に本当に、パン・ホーチョン監督すごいです。こんなに短期間で、同じ監督の作品を観たのは初めてなので、とても良い経験が出来たなとも思っています。香港映画の底知れぬポテンシャルを感じると共に、素晴らしい映画との出会いに感謝しています。